「色留袖でもないし、訪問着でもない。”付下げ”って買い取ってもらえるのかしら?」
タンスから出てきた付下げを目の前にして、あなたはそう思っていませんか?
もちろん着なくなった付下げは、業者に依頼をすれば買い取りしてもらうことが可能です。
ただし気になるのがその価格。
傷みや汚れの具合や作家の知名度、査定する業者が持つ着物への見識によって、提示される買取価格には大きな差が出ます。
そこでこの記事では、
- 付下げの買取価格の相場はどのくらいか?
- 買取価格が上がるポイントはどんなところか?
- どんな業者に査定を依頼するのがおすすめか?
について、詳しく解説していきます。
あなたの思い出の品に納得の価格が付くように、この先の内容を理解していってくださいね。
Contents
【基礎知識】あなたのはどれ?3種類の付下げと「格」のおはなし
付下げは細かく「付下げ訪問着」「付下げ」「付下げ小紋」3つの種類に分けられ、着用シーンが少しずつ違ってきます。
着物の世界ではよく「格」というものが話題になりますが、それはいわゆる「どれだけ改まった場所に着ていけるか?」という尺度です。
礼装にふさわしい着物であれば格式が高いとされますし、普段着に近い着物であれば格式はそれほど高くないという見方になります。
さて、付下げの3つの種類を格に当てはめてみると、次のようになります。
種類 | 格式 | ふさわしい場所 |
付下げ訪問着 | 略礼装 |
など |
付下げ | 普段着~略礼装 |
など |
付下げ小紋 | 普段着 |
など |
表の上に行くほどフォーマルに、下に行くほどカジュアルな位置づけになるのが分かります。
現在の着物の需要を考えてみると、多くが結婚式やパーティーなどのフォーマルシーンです。
買取された着物はクリーニングなどをおこない、中古販売で次の買い手に渡っていくわけですから、必然的に需要のあるフォーマルシーン向け着物が重宝されます。
つまり単純に格だけで見ると、「付下げ小紋」よりも「付下げ」や「付下げ訪問着」の方が値が付きやすいことになります。
※例外も多々あります。
例えば「付下げ訪問着」でも汚れがひどければ買取価格がほぼゼロになりますし、「付下げ小紋」でも人間国宝のような有名作家が手がけたものであれば希少価値が増し、高値で買取されます。
着物の買取価格はこのように、さまざまな視点から総合的に判断して付けられます。
付下げの特徴
付下げは、柄が全て上を向いているのが最大の特徴です。
花模様でも幾何学模様でも、上下が逆さまになっている箇所はありません。
【付下げの柄のイメージ↓】
これは1本の反物に柄を染めていく際に、どの場所が裾か?どの場所が右の袖か?などと、縫い合わせ後の完成イメージを考えながら柄が付けられていくからです。
反対に何も考慮せずに染めていくと、完成後に柄の上下が反転する箇所があらわれます。(小紋の着物を見るとよく分かります)
付下げはこのような作り方の背景から、柄が全て上を向いていると共に、縫い目の部分で柄が切れないようになっています。(縫い目を避けて柄が飛び飛びで配置されるためです)
付下げ訪問着の特徴
付下げ訪問着は、その名の通り「付下げ」と「訪問着」の特徴を合わせたような着物です。
- 付下げの特徴
→柄が全て上を向いている - 訪問着の特徴
→着物をキャンパスのように見立て、全ての縫い目で柄がつながって描かれている
付下げ訪問着は、これらを合わせて「全て上を向いた柄が、縫い目の一部だけつながっている」のが特徴です。
【付下げ訪問着の柄のイメージ↓】
訪問着と付下げの格はどちらも略礼装に当たりますが、華やかさと完成までの工程の多さから、若干訪問着の方が格上とされています。
付下げ訪問着は、そんな訪問着の華やかさや格に近づけるかたちで作られるようになった着物です。
一般的な付下げは柄の密度が薄く、あっさりとした印象の見た目ですが、付下げ訪問着の中には訪問着と見分けが付かないほど重厚な柄が施されているものもあります。
柄の密度の濃い付下げ訪問着は、訪問着とほぼ同格と扱われ、フォーマルな場においても堂々と着用ができます。
付下げ小紋の特徴
付下げ小紋は、「付下げ」と「小紋」の特徴を合わせ持った着物です。
- 付下げの特徴
→柄が全て上を向いている - 小紋の特徴
→全身に同様の柄がちりばめられている
小紋は言い換えれば「普段着として着る総柄のワンピース」のようなものです。
その柄のひとつひとつが上を向いているのが「付下げ小紋」となります。縫い目の部分で柄がつながるとは限りません。
【付下げ小紋の柄のイメージ↓】
付下げ小紋は、付下げ訪問着と逆で「普段着(小紋)寄りにした付下げ」です。
なのでフォーマルな席に着ていく用というよりは、観劇や神社巡りなどに出向くときにおしゃれ着として着用するものになります。
有名作家が手がけた品であっても、付下げ小紋は格式で言えば普段着です。(ただし買取価格はその希少価値から高くなる場合もあります)
以上のように、付下げには「付下げ」「付下げ訪問着」「付下げ小紋」の3種類があります。
純粋に現代の需要から考えると、フォーマルの席にふさわしい「付下げ訪問着」が重宝され、それが買取価格へも反映されます。
ですが先にお伝えしたように、誰が作ったか?保存状態はどうか?などの諸条件により、買取価格は上下します。
あなたがお持ちの付下げは、その付下げならではの価値があり、実際に査定してもらうことで「いくらで売れるのか?」が見えてくるのです。
付下げの買取価格の相場
気になる付下げの買取相場価格ですが、1着10000円前後です。
さらに付下げの3つの種類、「付下げ訪問着」「付下げ」「付下げ小紋」に分けていくと、フォーマルシーンで需要の高い「付下げ訪問着」の方が比較的高値で、普段着の「付下げ小紋」は比較的安値となります。
もちろんこの価格は「着物買取専門業者が見て状態のいいもの」に付けられる価格です。
状態のいいものとは、汚れや変色・傷がなく、現代の女性が着られるサイズの付下げのことを指します。
パッと見で汚れや変色などの目立つ付下げは、相場価格よりも下がると思っておきましょう。
反対に、新品と同じような状態で、さらに有名作家や有名産地ものである場合には、買取価格は相場よりもずっと高くなる可能性があります。
買取価格が上がるポイントは?
①人間国宝や伝統工芸師が手がけた品(落款や証紙付き)
技術の高い有名作家が手がける付下げは希少価値も高く、状態が良いと買取価格が跳ね上がる傾向があります。中には1着10万円を超える価格になることも!
査定の際には、その人物が作ったことを示す落款や証紙を必ず見せるようにしましょう。(骨董品と同じく落款や証紙がないと価格が下がってしまいます)
【有名作家の一例】
秋山眞和・稲垣稔次郎・上野為二・浦野理一・上野街子・小倉淳史・木村雨山・熊谷好博子・久保田一竹・小宮康孝・佐々木苑子・坂口幸市・志村ふくみ・城間栄順・南部芳松・新田秀次・羽田登喜男・林宗平・福田喜重・皆川月華・森口華弘・山下めゆ・吉岡常雄
②有名織元・染め元の品(落款や証紙付き)
着物や帯の生地の製造元である織元、染め元にも有名どころがあります。(分かりやすく言うと「メーカー」です)
人気の織元、染め元が手がける付下げは、買取価格が高値になる傾向が強いです。
【有名織元・染め元の一例】
誉田屋源兵衛・しょうざん・大彦・千切屋・大羊居
③有名産地の生地を用いた品(落款・証書付き)
着物の生地を形づくる染めや織りには、産地によって特色があります。(〇〇染め、〇〇友禅などと名の付く生地です)
有名産地の落款や証書が付いた付下げは、買取価格がアップする傾向があります。
【有名産地の一例】
牛首紬・小千谷縮・本場大島紬・加賀友禅・本場黄八丈・久米島紬・塩沢紬・信州紬・本塩沢・結城紬
④老舗で購入した付下げ
老舗の呉服店や百貨店で購入した付下げは、そのネームバリューにより買取価格が上がる傾向があります。
【老舗の一例】
ぎをん斉藤・に志田・えり善・ちた和・きしや・おか善・越後屋・世きね・福田屋・高島屋百貨店・三越百貨店・大丸百貨店
⑤汚れや変色、虫食いのないもの
汗ジミなどの汚れや退色、虫食いの跡がないものの方が高く売れます。
絹100%(正絹)の着物は着用してから時間が経つごとに劣化が目立つようになってきますので、購入してから日の浅い付下げの方がこの点では有利です。
もしも希少価値の高い品だと確実に分かっているようであれば、着物専門のクリーニングで汚れを落としてから査定を申し込むという方法を検討してもいいでしょう。
⑥サイズが大きめの付下げ
大は小を兼ねるで、サイズの大きな付下げは仕立て直して小さくすることができます。
その反面、小さいサイズのものは生地がその寸法で裁断されているので、いくら頑張っても大きくすることはできません。
現代の女性は昔の女性に比べて身長が高いため、数十年前のビンテージ着物を着ると袖丈や裾が足りないケースがよくあります。
そのため現代の需要を考えるならば、サイズが大きめの付下げの方が重宝されます。
※ちなみに、現在既製品として販売されている着物のサイズは身長155~163センチくらいの方を想定しています。各部位の寸法の平均値は、下の図のようになることが多いです。
⑦落ち着いた色のもの
付下げは振り袖や色留袖ほど仰々しくなく、コーディネートによっては街着としても使えるのが特徴です。
そのため付下げを求める方は、派手な原色よりも、街に溶け込む色合い(あっさりとした色、落ち着いた色)を好む傾向が強いです。
買い取られた付下げがその後流通することを考慮すると、控えめな色合いのものの方が需要が高くなります。
- 人間国宝や伝統工芸師など、有名作家が手がけた品(落款、証紙付き)
- 有名織物・染め元の品(落款、証紙付き)
- 有名産地の生地を用いた品(落款、証紙付き)
- 有名老舗で購入した品
- 傷み(汚れ・変色・虫食い)の少ないもの
- サイズが大きめの品
- 落ち着いた色合いのもの
この7つのポイントにたくさん当てはまるほど、あなたの付下げの買取価格は相場よりも高くなる可能性があります。
買取価格が下がるポイントは?
①汚れや変色、虫食いなどの傷みがあるもの
汗ジミや泥はね、水はねなどで汚れているもの、虫食いの傷みが目立つものは買取価格が低くなります。
たとえ有名作家が作った付下げであっても、見た目の劣化がひどければ価格は下落します。
とくに着用して目立つ襟元や袖、裾付近の汚れはマイナスポイントなる大きな要素です。
②ポリエステルのもの
伝統的な着物は生地が絹(正絹)です。それに対して、近年「洗える着物」として登場したのが、洋服と同じ素材のポリエステルを使った品です。
ポリエステル製の着物は傷みにくく絹よりも扱いやすいメリットがありますが、希少価値を考えると正絹に勝つことはできません。
ポリエステルの付下げは、買取価格がほとんど付かないケースもよくあります。
③サイズが小さいもの
現代女性(身長150~165センチ前後)が着て袖や裾が短くなってしまうサイズの付下げは、買取価格が低くなる傾向があります。
代々伝わっている、昔あつらえた付下げなどはこの特徴に当てはまることが多いです。
④色合いが派手なもの
付下げの着用を考えている人は、どちらかと言うと派手さや奇抜さよりも、品の良さや控えめな華やかさを求めています。
そのため色味の強い付下げは敬遠され、買い手が付かない可能性があります。
買取業者の立場からすれば「流通しやすい着物」の方が都合がいいですから、色合いが派手な付下げは買取価格がマイナスになることも考えられます。
- 傷み(汚れ・変色・虫食い)が目立つもの
- ポリエステル製のもの
- サイズが小さく現代女性に合わないもの
- 色合いが派手なもの
この4つが、買取価格を低くするポイントです。
付下げの査定を依頼するならどんな業者がおすすめ?
お手持ちの付下げを売る方法はいくつかあります。
- ネットオークションに出品
- フリマアプリに出品
- 近所のリサイクルショップや質屋に持ち込み
- 着物専門買取業者に依頼(近所にない場合はネットから査定を依頼)
もしも有名作家が手がけた付下げの売却を考えているようであれば、1~3のやり方はおすすめできません。
そもそも、有名作家の品であるという希少価値に相手が気付いていなければ、安値で買いたたかれてしまう可能性が高いからです。
ネットオークションやフリマアプリ、何でも買い取るリサイクルショップや質屋などは、このパターンが想定されます。
有名作家の付下げや、有名産地の反物で作られた付下げなどは、迷わず正当な価値を見抜ける着物買取専門業者に査定をお願いしましょう。
もしもお手持ちの付下げが、作家ものではないけれどデザインは個性的で目を引くという場合は、ネットオークションやフリマアプリでも「珍しい品」として値が付くこともあります。
それでもまずは「本当の価値を知る」という意味で、着物買取専門業者の査定を受けてみるとよいでしょう。
もしかしたらあなたが気付いていない価値が見つかり、思わぬ高値の買取価格が付くかもしれません。